【証券会社3.0】いま日本に必要なのは”サラリーマン投資家”だ <柴原祐喜×大浦学>
2019年1月29日 コンテンツ「日本からはなぜGoogleやAppleが生まれないのか?」
こんな問いが投げかけられてはや10年以上の時が経った。この“頻出問題”に対し、その原因としてしばしば挙げられるのが、我が国の企業文化や義務教育だ。
だが、そうした文化論的な回答とは違い、科学的に、制度設計からシリコンバレー的な環境をコツコツと整備している企業があることをご存知だろうか。
日本クラウドキャピタル。
ベンチャー企業の資金調達を実現する株式投資型クラウドファンディング『FUNDINNO(ファンディーノ)』を運営する会社だ。
なぜ日本ではユニコーン企業が生まれないのか?どうすれば日本企業の衰退は阻止できるのか?その答えを、同社CEO・柴原祐喜氏とCOO・大浦学氏に聞いた。
クラウドファンディングは「資金調達の機能だけに留まらない」
大学院の同窓である柴原氏と大浦氏は、もともとシステム開発会社を経営していた。だが、大学院時代からベンチャー企業育成への思いを共有していたこともあり、同時期にアメリカで誕生した株式投資型クラウドファンディングにかかる事業に参入することを決意したという。
「とはいえ、日本での起業は考えていませんでした。運営上必要な国内の法整備が不十分だったからです」(柴原氏)
柴原祐喜(しばはら・ゆうき)
株式会社日本クラウドキャピタル代表取締役CEO。東京都生まれ。カリフォルニア大学、明治大学大学院卒。在学中にシステム開発、経営コンサルティング会社を起業。2015年、日本クラウドキャピタルを創業。日本初の第一種少額電子募集取扱業として株式投資型クラウドファンディングサービスFUNDINNOを開始する
だが、2015年5月末に金融商品取引法が改正されたのを機に、同年に『日本クラウドキャピタル』を創業。2016年10月に国内初の第一種少額電子募集取扱業者として登録が承認された。
最初の案件開示から2年弱が経過した『FUNDINNO』は、2019年1月24日現在、46案件が成約に至っており、1社あたり平均4000万円弱の資金調達に成功している。これまで調達した累計成約額は17億1208万円と国内トップだ。
COOの大浦氏が投資型クラウドファンディングに成長可能性を感じる理由は?
大浦学(おおうら・まなぶ)
株式会社日本クラウドキャピタル代表取締役COO。千葉県生まれ。明治大学大学院卒。MBA取得のため通っていた大学院時代にCEO柴原と出会う。2015年、日本クラウドキャピタルをCEO柴原と創業。
「日本の金融業界では銀行やベンチャーキャピタルといったプロの目利きによって融資が判断されるクローズドな世界が長く続いていました。が、市場のニーズや事業性の評価などは金融のプロでも難しい。その価値判断を、複数の投資家の判断という“集合知”によって下せることが株式投資型クラウドファンディングの何よりの強みなんです」(大浦氏)
発行会社に対して法定以上に厳しい審査を行なった上でクラウドファンディングを実施している同社だが、「市場での価値判断には我々(日本クラウドキャピタル)は関与せず、あくまでそれぞれの投資家ユーザーに資金調達の成否を判断してもらうことを重視している」という。
とはいえ、投資家や発行会社のニーズに常に耳を傾けることも忘れない。
「成約後も、ヒトやモノ、取引先を紹介することで成長支援の体制を作ることに注力しています」(大浦)
“ファン投資家”という新しい株主の誕生
仮にベンチャー企業が3000万円の資金を調達する場合は、200人前後の投資家ユーザーが集まれば達成できることになるが、資金調達の機能だけに留まらないサービスも『FUNDINNO』の特徴だ。
「管理コストなどの観点から、株式投資型クラウドファンディングの世界では株主が増えることを必ずしも良しとしない向きもあります。しかしその反面、投資家=ファン層と考えれば大きな利点もあります」(柴原氏)
“ファン投資家”を巻き込みながら資金調達後の成長支援に注力できる点は、『FUNDINNO』の大きな魅力だという。
「スタートアップ企業のほとんどは人・モノ・金、情報など経営資源が不足しがち。ですが、我々が発行会社さんと投資家ユーザーの間で積極的にコミュニケーションを促すことで、公募増資に見合う経営体制の設計など幅広い成長支援が行えるのです」(柴原氏)
投資家の5人に1人が金融資産3000万円以上
『FUNDINNO』の投資家には他の株式投資にはない特徴がある。
「投資家ユーザー数1万4000人のうち、金融資産3000万円以上の人たちが22%を占めており、その多くが経営者・経営層となっています。5人に1人の割合です。そのため、中には投資先の顧問になった投資家もいます」(大浦氏)
単に生き延びるだけではなく、ベンチャーキャピタルから追加融資を受ける企業や「TOKYO PRO Market」を目指す企業も現れ始めるなど、多くの企業が着実な成長を実現しているようだ。
本当の目標は“資金調達“の先にある
資金調達の敷居を下げることに貢献した『FUNDINNO』だが、このサービスを手がける日本クラウドキャピタルが目指す先には何があるのか。
一般投資家の資金を非上場企業のプライマリーマーケットに流し、株式売却(IPO)やM&A(バイアウト)を経て、投資家に還元される循環を達成するのが第一の目標と大浦氏。
「しかし……」と彼は続ける。
「さらなる増資が必要な場合にはベンチャーキャピタルや銀行、人材不足の場合には人材系企業というように、今後は様々な業界の各社さんと連携しながら、スタートアップ企業の成長にいっそう寄与していきたいと考えています」
現在、証券口座が1000万口座、仮想通貨だけでも60万口座を数える中で、スタートアップ投資はまだ数万ユーザーというレベル。
「より気軽にスタートアップ投資をしてもらうためには、与信の観点から企業の審査精度を高め、市場に一定のフィルタリングを機能させると同時に、投資家に成功体験をもたらすスタートアップマーケットの創出が必要なんです」(大浦氏)
だが、あらゆる企業が“成功”のルートを辿れるわけではない。企業の10年後の生存率は約5%。株式投資型クラウドファンディングで調達したベンチャー企業の中にも、つい先日、会社を閉じる企業もあった。
「そのような事態が起きたことはとても残念に思っています。弊社は今後、単なるベンチャー企業の資金調達のプラットフォームにとどまらず、資金調達企業の価値を増大させ、よりアフターフォローに資源を投入してく予定です」(大浦氏)
アメリカと日本。ベンチャー企業の“格の違い“
こうした取り組みの先に描く青写真が「フェアに挑戦できる未来」(柴原氏)。誰もが気軽に資金調達することができ、誰もが投資家になれる。そんな「一億総起業家」「一億総投資家」の社会を彼が目指すのは、遠い日本の将来を憂いているからだ。
「これから、日本は超高齢化社会を迎えていきます。しかし、これは絶望ではない。引退した65歳以上の方たちが積極的にベンチャー企業に参加していく社会になります。我々はその環境を整えたいのです」(柴原氏)
この環境整備がなぜ重要かを、柴原氏は日本とアメリカの資金調達の大きな“格の違い”で説明してくれた。
「日本の2017年のベンチャー出資額は2900億円、2018年は4000億円といわれています。片やアメリカは10兆円です。特にIT関連など成長率が激しい業界では初期の資金が不足すると数年後には圧倒的な差が現れてしまいう。我々の世代で責任をもって次世代にバトンを渡すことを考えていかなければ、将来の日本は挑戦すらできない経済環境に陥ってしまうのです」(柴原氏)
同社のチャレンジのハードルは決して低くないが、国もスタートアップ型投資の支援に乗り出す動きもあり、投資家向けのエンジェル税制の拡充を続けてきた。
これは自身の年収やエンジェル税制適用企業への投資額に応じて、控除を受けられる企業版ふるさと納税のような制度だが、同社はエンジェル税制による控除額を概算する『エンジェル税制税負担軽減シミュレーター』も昨年12月にリリースしている。
「『FUNDINNO』を始めた当初は、“市民のエンジェル投資”が日本で本当に根付くのか不安もありました」と大浦氏。
スタートアップ型投資はどうしてもハイリスク・ハイリターンな世界と言われる。本来、創業から間もない企業に個人で投資するエンジェル投資家は数百万円単位での投資や、ビジネスプランや市場環境なども含めて、発行会社を審査する能力が必要だ。
しかし、FUNDINNOが登場したことで、その環境が大きく変わり始めているようだ。
「弊社が発行会社を審査し、かつ数十万円からの投資を可能にしたことで、予想以上に多くの潜在的なエンジェル投資家を日本で掘り起こせたと実感しています。投資のリターンなど、実績データが平均値として出てくるのは3〜5年後ですが、そうした数字がしっかりと出てくると、さらに多くの人たちが投資しやすくなるでしょう」(大浦氏)
株式投資型クラウドファンディングが後ろ盾となり、かつてのGoogleやAppleのように世界を席巻するようなベンチャー企業が、いつか日本から登場するのかもしれない……と言われ続けてはや10年。
いよいよ、我が国にもその環境が整ってきた。真の成長に向けて“嘆き“だけで終わらない新たな証券会社、日本クラウドキャピタルの挑戦は続く。
―――――――――――――――――株式会社日本クラウドキャピタル
http://www.cloud-capital.co.jp/
第一種少額電子募集取扱業者
関東財務局長(金商)第2957号
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