「ヒト・モノ・カネ・キマリ」。日本のベンチャーに最も求められる武器は…? <特別鼎談後篇:『起業の科学』田所雅之×日本クラウドキャピタル柴原祐喜・大浦学>
2019年7月2日 コンテンツこのたび、日本クラウドキャピタルは、FUNDINNOでの累計資金調達額が20億円を突破し、また株式投資型クラウドファンディング業界初のExit案件が生まれました。
これに加え、累計5万部を突破した起業・新規事業のバイブル『起業の科学』(日経BP社)の著者でもある田所雅之氏を顧問として迎え、日本のスタートアップ市場を強力に支援する体制構築を行いました。
【前編】(なぜ、『起業の科学』の著者がFUNDINNOを応援するのか?)はこちら
PL・BS脳にならず、突破するためのキーワードは“ディフェンサビリティ”
そこで本稿では、このたび顧問に就任した田所雅之氏と、日本クラウドキャピタルCEO柴原祐喜、COO大浦学の3人で日本のスタートアップの課題、そして今後のFUNDINNOの未来について、さらなる成長を歩むべく熱く交わした議論の内容を掲載しました。
前篇では、田所氏が日本クラウドキャピタルの顧問に就任した理由や、スタートアップに多様な資金調達手段が用意されていることのメリットについて語ってもらいました。
後篇では、日米の文化的背景を踏まえつつ、GAFAのようなユニコーン企業が日本から生まれるために、スタートアップに求められるPL・BSに記載されない「ディフェンサビリティ」という価値の重要性、そしてFUNDINNOのさらなる成長戦略について意見を交わし合いました。
ヒントは“納税”。日本とアメリカ、起業文化の違いはここまで大きい
――田所さんの話を伺うと、日本とアメリカではなぜここまで投資に対する考え方に差があるのか疑問に思えてきます。
田所:日本との差としてもっとも大きいのは、納税の仕方にあると私は考えます。アメリカは国民が自分たちで確定申告しなければなりません。つまり、若い学生でもタックスリターンがある。そうすると、自分の“決算書”と毎年にらめっこするので、どうやったらもっと自分の収入をあげられるのか、20代から意識するようになります。結果として、自分の資産のポートフォリオを考える習慣が若いうちから生まれます。
――日本のように「源泉徴収型」だと、自動的に税金が引かれるので、自分の納税額についてあまり考えなくなるということですね。
田所:そうです。両国を対比して言えば、「独立心が強いアメリカ」に対して、「社会主義(ソーシャリズム)が強い日本」というのが私のイメージです。極端な話、東京に住んでいる場合、仮想通貨などでちょっとしたお金が入ってくると、投資よりも西麻布で金ばらまくみたいになっちゃう(笑)。そうじゃなくて、そのお金を今度はどこに回すべきなのかということを個々が真剣に考える。それが文化的な差としてもっとも大きいと感じます。
――まさに、「金持ち父さん」になるために自分のお金の使い方を労働収入以外でも考え続けるべきなのですね。
田所:ほかには、移民文化の影響もあるでしょう。移民としてアメリカに渡った人はアメリカで認められたいという気持ちが強くあリます。アメリカでは、個人資産がある一定額をこえるとアメリカ政府から永住しませんかという案内がくるという噂です。アメリカ国内で移民がのしあがるには、大学の教授になるか、医者になるか、スタートアップを立ち上げて起業家として成功するか、という選択肢に自然と絞られるそうです。あのイーロン・マスクも南アフリカ共和国生まれですが、ペンシルベニア大学を経てスタンフォード大学大学院に進み、起業しています。起業家で成功することは、まさにアメリカンドリームを体現することになります。
「ヒト・モノ・カネ・キマリ」。日本のベンチャーに最も求められる武器は…?
ーー起業文化の違いはもちろん、資金調達文化の違いも大きいですよね。
田所:そうですね。これはアメリカの大学院でスタートアップの資金調達の研究をしていた柴原さんのほうが詳しいかもしれませんが、アメリカは株式投資型クラウドファンディングの規模もケタ違いですよね?
柴原:そうですね。株式投資型クラウドファンディングの市場規模はアメリカが約1兆円(2018年)に対し、日本は業界シェアトップのFUNDINNOがこのたび20億円を突破したところです。つまり、まだまだ市場は広がると思っています。ちなみに、イギリスで同様のサービスを行うCrowdcubeは800社以上が資金調達を実現し、投資額は約900億円を超えています。こちらも日本より圧倒的に規模が大きいです。
――現状、日本の株式投資型クラウドファンディングはどの段階にあると考えますか?
柴原:まだイノベーターの段階という認識です。もともと我々が目指していた株主のコミュニティビルディングはできつつありますが、これをもっと大きくしていきたいです。
ーー今回、田所さんには日米スタートアップ文化の差異を踏まえつつ、FUNDINNOのさらなる成長のために支援していただくということですね。
柴原:そこで田所さんに伺いたいのは、今後の拡大の仕方です。弊社の株式投資型クラウドファンディングというスキームが「キャズム」つまり、マーケティングの有名の理論で“深く大きな溝”という意味で、初期市場とメインストリーム市場の境界線に存在するといわれている溝を超えるためには、いま何が必要と考えますか?
田所:私は、「日本型キャズムの突破の仕方」と名付けてその分析をしていますが、そこで求められる要素は「ヒト・モノ・カネ・キマリ(レギュレーション)」 の4つと定義しています。中でも、いま日本において最も重要なのは最後の「キマリ」です。
――「キマリ」というのは法律や政府の後押しのようなものでしょうか。
田所:はい。いま、アメリカのスタートアップは第7世代と言われていますが、この第7世代の代表的企業であるUberはアメリカのオバマ政権時の上級職員や、2008 年の米大統領選でジョン・マケイン上院議員の渉外担当部長および主席報道官として活躍した方が役員に入っています。これはなぜか。政府との強力なコネクションを持つ人物を入れることで自社サービスの普及拡大を政府に後押ししてもらうためです。ロビー活動というのは、我田引水というわけでなく、現状の市場状況に合わない規制や法律をアップデートし、より、フェアに戦えるフィールドを作るという大義があり、アメリカでは非常に重要視されています。
――日本のスタートアップは、大企業の元幹部が役員に加わることは多いですが、政治関係者は少ない印象ですね。しかし、法律はスタートアップのサービスと切っても切り離させない関係です。
田所:ここにも日米の差が見られます。日本の法律は“やっちゃだめなこと”が書いている。いっぽう、アメリカは“やっていいこと”が書いてあります。そのため、アメリカの場合、事業を始める前から「これは法律にダメと書いてあるから無理だよね」とはならない。
ーー真逆ですね。
田所:さらに、革新的なサービスをローンチした後は、世間が「これは既存の法律の範囲内に則ったサービスなのか?」と議論が巻き起こったときに喧嘩上等!みたいに闘っていくところもある(笑)。
ーー「まずはつくって、それから考えようぜ」みたいな文化ということですね。
田所:そう。新サービスに対し賛否両論の議論が巻き起こったら、すぐに撤退するのではなく、そこからがロビイングの始まりなのです。あのGoogleもUberも、最初は「このサービスはグレーでしょ」と言われていました。
柴原:我々も日本の金商法が改正されることがわかり、FUNDINNOを国内で始めるにあたって、どのようなスキームを組めば普及し、拡大していくのかを何度も議論しました。サービス開始前は何ヶ月も金融庁とネゴシエーションの場を設けました。
メルカリ成功の背景にあるもの
――ここまでだと、「アメリカはよくて、日本はダメ」のような流れになりそうなので(笑)、少し日本のスタートアップマーケットのポジティブな側面についても伺いたいです。
田所:そうしましょう(笑)
柴原:僕から質問がありますが、日本からグローバルを目指すGAFAのような企業が出るためにはどうすればよいでしょうか?
田所:ちょうど昨年、Forbesで講演したのですが、そこには5つのポイントがあります。下記の図です。
【グローバルに成長できるスタートアップ5つの特徴】
1:Want…海外で経営者がやりたいのか?
2:Can…海外で戦えるための圧倒的優位性があるのか?
3:Needed…海外の潜在的市場があるか?世界の問題意識があるか?
4:GetPaid…グローバルで参入障壁が低いか?
5:Growth Story…海外展開することで自社の成長イメージを描くことができるか
田所:ただ、これはあくまで必要条件です。ここからどうやって天下をとるのか、という方が大きなポイントです。それは、カネ、ヒト、タイミングの3つに集約されます。
――昨年上場を果たしたメルカリは、ここ最近では日本のスタートアップ業界において大きな希望を与えたはずです。その成功要因から日本のスタートアップが大成するためのポイントを教えてください。
田所:メルカリは小泉社長と山田会長、それぞれ2回目の起業だったというのが大きいと思います。それぞれ起業経験があるので、スタートアップの各フェーズで重要なことをそれぞれが自覚していた。たとえば、創業期にどんなメンバーが揃っているかでその後入る社員の質が決まるため、メルカリは初期メンバーから実績のある方(元ミクシィの小泉さん、元ゴールドマンサックスの長澤さん)を招き、ドリームチームにしていました。他にも2016年に84億円の大型資金調達を行ったり、テレビCMを積極的に売ったりと、スケールすることにあらゆる手を尽くしました。
ーー資金調達の規模や、その使い方が大胆でしたね。
田所:結局、スタートアップの社長に最も求められるスキルって「カネの使い方がわかるかどうか」なんです。メルカリは、それがわかる人が経営者だったんです。
“初めての起業”で失敗しないために
ーーとは言え、ほとんどのスタートアップ企業の社長が“初めての起業”です。その場合、一回目の起業の反省を活かして次こそは成功するぞ!というケースは少ないと思います。最初の起業で失敗リスクを避ける方法はあるのでしょうか。
田所:いかにPL・BS以外の価値を言語化できるかではないでしょうか。スタートアップの価値はこれ以外の点に発生することも少なくありません。
ーーどういうことでしょうか。
田所:たとえば、累積赤字が最大1兆円を超えていたAmazon。現在では約60兆円の時価総額がついているこの企業のPL・BSには書かれていない価値はなにか。それはAmazonアソシエイト・プログラムです。1996年にアソシエイト・プログラム(アフィリエイトのようなインターネットに寄る顧客紹介システム)が始まりましたが、以降、これがディフェンサビリティとなり、サービスの価値が大きくなり、同社の強みとなった。つまり、後発組が参入してきたときに防御になっているものとなったのです。そして、それはBS・PLには現れにくい側面です。
ーーなるほど。
田所:それを示したのが以下のスライドです。
田所:ほかには、グローバル市場で成功している無印良品。同社はいま、1兆円超の時価総額を叩き出していますが、その成功理由の一つは「ムジグラム」という書面ですべて自社のサービスや接客方法を型化している点にあります。これはPL・BSには書かれていない価値です。他にも事例は多くありますが、自社のサービスに大手が参入してきたとしても、「見えない勝てるバリュー」を出せているのかが重要ということです。自社のサービスは他社でも再現性のあることをしていないかと常に問い続けることが重要です。
大浦:とても納得できます。ただ、PLとBS以外の価値算定は難しいのが実際のところです。ディフェンスが大事。でもそのディフェンサビリティをどのように自社のリソースの中から見出すのかが焦点になってきそうです。
田所:これは会社やサービスごとに違いますので、個々で洗い出しが必要です。ただ、通底しているものはあるでしょう。サービスをスケールしていくための「戦略」。PL・BSには書かれない独自の価値として積み上げている「防御」。そして社長をはじめとして、メンバーがサービスや業界の「専門家」になれているか。この3つが大事です。
柴原:ありがとうございます。田所さんとお話して、これまで、どうしてもPL脳で自社の業績を考えがちでしたが、「ディフェンサビリティ」という概念を通して自社の強みは何なのか改めて言語化できるきっかけをいただけた気がします。弊社で言えば、現存するリスクの中で、最大のリスクがなんなのかという点をしっかり考える必要があるかなと思いました。
田所:冒頭でお話しましたが、FUNDINNOが持つディフェンサビリティは明白です。それは参加者同士での「正のネットワーク」。単なる投資家が数千人、数万人集まっているのではなく、株式投資型クラウドファンディングというプラットフォームを盛り上げていきたいという株主コミュニティが形成されています。そして、彼らのあいだで「起業するならFUNDINNOで資金調達をしよう」という貢献意識が生まれている。それはFUNDINNOの大きな強み、つまるところディフェンサビリティになっているのは間違いないでしょう。
【前編】(なぜ、『起業の科学』の著者がFUNDINNOを応援するのか?)は こちら
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