”夢ある投資” FUNDINNOをベンチャー成長プラットフォームとして期待しています
日本随一の未上場会社と上場会社にわたる技術投資事業を行い、ファンド等の運用実績が約370億円に上るイノベーション・エンジン株式会社 代表取締役 佐野睦典氏に、VCの目に映るFUNDINNOについてお話を伺いました。
佐野氏(以下、佐野 敬称略)は野村證券に入社し資産運用業務に従事した後、野村総合研究所に転じ、ベンチャー企業の事業評価と上場支援業務を責任者として推進されました。その後、ジャフコにて投資調査部長に就任後、日本初の先端技術ファンドを責任者として運営。2001年1月に独立し、イノベーション・エンジン株式会社を設立し、ベンチャーファンドの運営を統括すると共に、自らも投資先企業の社外取締役となり事業創成の推進・支援を行っています。
■ FUNDINNOとの出会いは、投資案件として
初めてFUNDINNOを知った時から、第一印象はどのように変わりましたか?
佐野:「FUNDINNOを一番初めに知ったのは5年ほど前で、我々の投資対象として候補に上がってきた時でした。我々もVCとして苦労してきたので、FUNDINNOへの第一印象は正直「大変しんどい事業内容だな」という印象でした。ただ、最近はFUNDINNOの成長を感じています。具体的には、まずは募集会社の数と質がかなり向上しましたね。株式投資型クラウドファンディング(以下、ECF)に不可欠な、一定の成功確率をベースとするビジネスモデルが徐々に成り立ってきたように思います。完全に儲かる仕組みではありませんが、投資家にとっては、より良いスタートアップを選び、投資ができるという価値を提供しつつあります。また、投資家が出資をするもう一つの価値は「夢」です。投資した会社の株式を保有しているとき、その価値(≒「夢」)に大きな意味があります。そして、その「夢」が大きい分だけ、投資家の良いスタートアップに投資をしたいという要望も高くなります。従って、たくさんの企業を集め、それをふるいにかけることがポイントになります。その点において、最近のFUNDINNOでは、良い会社がたくさん集まっており、会社をセレクションする仕組みもできつつあるのではないか、と思います。
また、投資家数もめざましく増加していますね。たとえ損をする人が出ても、それ以上に「夢」を持ちたい人が増えれば、投資家は増えるでしょう。ただ、損をした人たちにとっては保有している株式の流動性が重要になるので、そういった機能(=セカンダリーマーケット)をどの程度進められるか、もポイントです。そこにセカンダリーマーケットがあれば、勝負が一回終わり、損をしてしまっても、もう一回投資しようという気持ちが起こります。投資家は損をした株を持ち続けていたら気分が悪くなりますが、それが解消したらまた新しい夢を求めるものです。これは本質的に重要で、FUNDINNOが成功するためのポイントだと思います。ただ、これまでのプロマーケット、グリーンシート、株主コミュニティなどの新しい市場が設立されましたが、それぞれ課題があったと考えています。それらのケースと同様に、JCCもセカンダリーマーケットを育てていくことには課題があると思いますが、投資家のためにも、今後必要不可欠となるでしょう。」
■ ECFにおける反社株主リスク、多数株主問題を懸念したことはない
ベンチャーキャピタルにとって、ECFに関する懸念点があるかと思いますが、それらの点についてはどのようにお考えでしょうか?
- ①反市場(反社会)勢力の株主が入ってしまうリスク
- ②株主が非常に多くなることによって経営のコミュニケーションコストが高くなる
佐野:「SPIネットワーク(反社会的勢力をチェックするシステム)を活用しているのであれば、犯罪者は排除できていると思いますが、全ての反社の人を排除するのはおそらく無理でしょう。ただ、反社の人は、「夢」より短期で儲けたいと思うので、何年も塩漬けになる可能性のある未上場株に出資をする人は、数的には少ない気がしています。なおかつ、ECFでの投資額上限が定められておりそれぞれの株主は総発行株式数の1%も出資できないので、経営の意思決定に対する影響力は極めて限定的になります。上場するときに課題になるかどうかの議論はありますが、私は心配していません。そのため、PRを通じて、投資家の一般的な考え方を少しずつ変えていく必要があるでしょう。大切なのは、いかに不信感を払拭できるように発信していけるか、ということです。そのあたりを影響力のある人物に発言していただいたり、パブリックオピニオンを使っていくと良いでしょう。」
■ FUNDINNOに期待することはインキュベーターとしての取り組み
今後、FUNDINNOにどのようなことを期待されますか?
佐野:「反社確認に関して、コストダウンをし、アラートする仕組みを持つことが大切だと思います。今はネット上で反社チェックする仕組みがたくさんあるので、それらもうまく使い、FUNDINNOがチェック機構となるのも良いかもしれません。また、株主数分布や現況、実績などを具体的に定期的にホワイトペーパーで公表していくのも良いでしょう。普通の会社は、顧客として何千人、何万人と管理するのだから、株主が何百人もいることは普通であり、問題ない、という方向に持っていけるかもしれません。他のVCはわかりませんが、ベンチャー企業がFUNDINNOを通じて資金調達をしても、当社にとっては問題ありません。ただプラスにもなっていないので、プラスになるような仕組みを設けてくれたらもっと良いと思います。
例えば、これまで調達した会社のフォローアップなどは良いサービスだと思います。FUNDINNOの立場が、仲介的な立場であるならば、チャンスを提供してあげているだけなので、全責任は株主だと言えます。しかし、インキュベーター的な立場ならば、成功・失敗の責任がFUNDINNOにも求められます。FUNDINNOはインキュベーターの側面もあるかと思いますので、調達支援やM&Aサービスを提供するのも良いと思います。セカンダリーマーケットで非上場株の流量性を確保しつつ、インキュベーターとしての調達支援やM&Aサービスを通じて、ベンチャー企業の成長をサポートする、こういった取り組みをどんどん進めていってほしいと思います。」