本当のAIとはなにか?日本人に伝えたい「教養としての人工知能入門」

2018年9月10日 発行者情報


AIが予測する○○――。

そう聞いて、あなたはどのような印象を抱くだろうか。

そもそもAIの仕組みを理解できていると自信をもって答えられるビジネスパーソンはそう多くないはずだ。

荻野 調(おぎの・しらべ)
1973年生まれ。ハーバード大学修士号、東京大学博士号取得。大学院に通いつつソニー等で500億円規模の事業再編を含む事業立上げを経験。伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グリーを経て2015年に財産ネット株式会社を設立。2018年ファントムエーアイ株式会社を設立。フィンテック協会理事。

AIは”AとBのどちらに近いかを判別する”存在。本質的には1970年代の第一次人工知能ブームから大きな違いはありません。
ただ、今の第三次ブームはその処理スピードが飛躍的にあがっているだけです」

そう語るのは、ファントムエーアイ株式会社代表の荻野調氏(44歳)。
先日、金融分野において仮想通貨の値動きを予測するフィンテック企業ファントムエーアイ社を立ち上げた人物である。

荻野氏は早稲田大学理工学部を卒業後、ハーバード大学大学院修士号を取得。ソニー、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、グリーを経て2015年に AIを使った株価予測アルゴリズム『週間株価予報』を運営する財産ネット株式会社を設立。続いて彼が目をつけたのは仮想通貨の値動き予測アルゴリズムだった。

荻野氏は、過度なAIバブルに警鐘を鳴らしつつも、なぜAIで値動きを予測できると考えるのか。

彼の言い分をわかりやすく解説してもらった。

日本人のための、フィンテックAI入門の開講である――。

AI企業とは、ドラえもんを作っている企業

――本当にAIで仮想通貨の値動きを予測できるのでしょうか?

「いま、日本は空前のAIブームと言ってよいと思います。AIが完全にバズワード化していますから。
ただ、ほとんどの企業は本当の意味でのAI企業ではないと私は考えます。
ここでいうAI企業とは、ひらめきや考察ができる知能を作ろうとしている企業のこと。
たとえば、ドラえもんを作ろうとしている企業はAI 企業と言えますが、そんなところはどこにもない。
“AI搭載”を謳う商品はありますが、多くは他所のAIエンジンをそのまま使ってアウトプットをしているだけに過ぎません。」

荻野氏によれば現在のAIエンジンの多くは、与えられた情報以外の概念を理解したり、自らが未知の何かを見つけ出したりひらめくことができない。
「ある事象がAに近いのか、Bに近いのかを膨大なデータから判別することができるだけ。」だという。

たとえばFacebookの顔認識機能。

この機能も、その人と友人の過去のアップロード画像の中で、写真に写った人がどの人に近いのかを判定してフラグを付けているものだ。すべてはデータの蓄積によって判別しているにすぎず、そこに自律性はないというのだ。

2号店で同じ味を再現できない豚骨ラーメン屋問題

そんなAIに関する誤解が多い我が国において、現在荻野氏が開発しようとしているプログラムが「Phantom AI Platform」というもの。

「将来のビットコインの値動きを予測するアルゴリズムです。
これは、私が同じく代表を務める財産ネット社が『週間株価予報』のために開発したアルゴリズムをベースに開発します」

どのように株価を予報していたのだろうか。

「金融の時系列データ、例えば株価変動にはランダムウォークという要素が必ず入っています。言葉どおり、その瞬間瞬間の需給バランスで作られるランダムな動きですね。
いわば、意味がなくて動いているもの。
この意味がなくて動いている値動きと、機関投資家が目標株価を意識して買いを入れていくような意味があって動いている値動きを分けることで正確な予測を行うのです」

荻野氏は、それを人気ラーメン店の2号店進出を例に例えてくれた。

「博多で毎日行列100人ができる人気の豚骨ラーメン屋が、2号店として東京進出したとしましょう。
しかし、なぜか東京では同じ味にならない。
スープも同じ、麺も同じ、チャーシューやメンマなどの仕入先も同じ……。それでも味にブレがあった原因は、気温差だったと判明したとします。

東京のほうが寒いのでスープの味にブレが出てしまった。
そのため、この気温差を考慮せずに調理すると、愚直に調理マニュアルに沿って作っても味は再現できませんよね?」

どんな要素が味を決定付けるのか。それを解析できなければ違う場所でも味を再現できない

荻野氏によれば、”正確な値動きを予測できるAI”とは、ここでいう味を左右する気温差を考慮できるAIのことを指す。

何が値動きの理由として大きく作用しているのか。それを抽出できるほど優秀なAIというわけだ。

どうやってビットコインの値動きを予測するのか

荻野氏がファントムエーアイ社のほかに代表を務める財産ネット社では、株価予測をするAI『週間株価予報』を提供していた。

値幅の収まる確率によって円の色が異なる。吹き値売りゾーンと押し値買いゾーンを円により表しているグラフ

これは、ある企業の株価値動きを過去の日経平均株価との連動性、銘柄の季節性、時事性などの複数のデータから分析し、 今後の値動きを予測するというもの。

今回開発するビットコインの値動きを予測する「Phantom AI Platform」とは抽出する要素が異なるものの、
経済学にとどまらない複数の学問の知見を取り入れている点では共通している。

「我々が提供するランダムウォーク除去技術には、テレビや携帯電話と同様の信号処理技術を使っています。電気通信工学の中に信号処理という分野があります。
我々がスマートフォンの電波を送受信する時、様々なものが発するノイズが入りこんでしまいます。それを電波の中から取り除くことで信号が届いて音声や映像に復調できています。
このような様々なノイズを取り除く技術を考えるのが通信工学の一つです。同様の技術を金融で用いているのは当社だけと言われていますが、当社では株価予測の際にも援用しているのです。」

緑の部分がノイズ。これにあたるものを把握して取り除くことで電波の飛び方を把握するのだという。

「もちろん、使うのは通信工学だけではありません。流体力学や宇宙工学も応用可能性がある。
流体力学は流体における粒子の動きをモデル化する学問なので、各投資家のオーダーを流体とし資本市場を受け皿とみなすと価格の動きをモデル化することに十分応用できるのです。
宇宙工学でも同様で、星の引力と斥力は、グローバル市場間の影響力のモデル化のヒントとなります。今後は、各学問分野のエキスパートのあらゆるアルゴリズムを金融分野に応用するエコシステムを構築することで、より予測精度を向上させたいと思っています」

もともと、荻野氏も大学時代の専攻は電気工学。電気通信工学は電気工学の中に含まれる。

荻野氏が中心となって開発するAIエコシステム「Phantom AI Platform」は、世界中の研究者が専門分野のコードを導入できるようにすることで、 例えば信号処理の専門家が自由に金融予測のアルゴリズムを書けるようにするという。

むろん、株価の値幅の動きを生み出す要因と、ビットコインのそれは異なる。ビットコインの値幅の動きは何を参考にして予測するのだろうか。

「ビットコインの場合、トヨタの株価のように日経平均の値動きは関係ありません。それよりもウォレットの数の変動、ウォレットに保管されているお金の量、 それからビットコインを大量に保有している人の動きを追い続けることで値幅を予測します。
ブロックチェーンは取引の全てが公開されています。誰がどれくらいの量を保有しているのか把握し、その変遷を紐づけて観察することができます。
となると、ファーストペンギンが誰で、誰がそのファーストペンギンの動きを見て売買したフォロワーかが把握できます。
予測AIとしては、ファーストペンギンの動きを追ってフォロワーの動きを予測すれば良いわけです」

予測精度をあげるために多くの政府統計、ニュース、経済環境などさまざまな要素のデータをAIに取り込む

そのAIプログラムの開発費の資金調達場所として荻野氏が選んだのは、投資型クラウドファンディングFUNDINNO。
(ファントムAIの募集ページ https://fundinno.com/projects/49

FUNDINNOといえば、近年スタートアップが資金調達をする場として注目を集めている資金調達プラットフォームである。

「もともと昨年夏にはICOでトークンを発行して資金を募る方法を考えていました。しかし、それが規制によって日本人を対象としてはできなくなった。
そこで合法的に資金調達できるFUNDINNOに目をつけました。日本人の個人投資家が多く集まるプラットフォームであるFUNDINNOを選ぶことにしました」

ここまで聞いて、「AIが値動きを予測する」に対する誤解が解けたという人もいるかもしれない。
だが、その売り方、売る場所については慎重な判断が求められそうだ。

「最終的にはこのシステムを金融機関やヘッジファンドに売り込んでいきます。
現在、日本のAI技術は後進状態と言わざるを得ません。世界を席巻するAIエンジンを金融分野で確立していきたいですね」

このプロジェクトの募集ページは下記URLよりご覧いただけます。

https://fundinno.com/projects/54

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