「風邪をひいたときのSNS投稿がヒントだった」急成長支える漢方薬EC大ヒットの秘密−−漢方生薬研究所・橋口遼社長

2019年12月19日 発行者情報

「これが本当に実現したかったことなんです」

2017年12月、FUNDINNOを通して457人のエンジェル投資家から29,250,000円の資金調達を実施した株式会社漢方生薬研究所の橋口遼社長。


株式会社漢方生薬研究所代表取締役社長 橋口遼氏

2019年は同社のビジネスが大きく加速する年となった。

7月にはFUNDINNOの発行者として初めて、あるファンドと一部の株主との間で相対取引を実行。エンジェル投資家の保有する1株500円の株式に対し、750円での買い付けが行われた。

結果として1.5倍のEXIT事例となり、株式投資型クラウドファンディングの投資家へ初の“還元”が実現した。

さらに、初の宅配もできる店舗を福岡市内にオープン。

現在、クラウドファンディングサイトのMAKUAKEで一般用医薬品と薬膳おかゆを最短10分で届ける「薬膳宅配専門店 おかゆや」の支援を募っている(2019年12月8日現在)。


「MAKUAKE」より

創業以来、ここまで順調に歩を進めてきたように思える同社だが、その成功の背景には何があるのか。

代表取締役の橋口遼氏に話を伺った。

成長のキーワードは、綿密に設計された<SNSマーケティング>と<株主消費者>という新たな層へのアプローチだ。

「本当に進めたかったのはスピーディな宅配だった」

漢方生薬研究所は、2015年漢方生薬のEC販売の会社としてスタートした。

「創業当時からECに加え、店舗で医薬品販売をしていますが、本当に進めたかったのは10分でお客様に届けられるスピーディな宅配だったんです。医薬品の配達での販売は、店舗を構えていなければ法的に認められていません。そのために店舗を作っていたと言ってもよい。つまり、今年、ようやく積年の目標が実現したという形です」

こうしてEC販売に加え、宅配事業も始めた同社だが、薬膳おかゆの販売も同時にスタートした。


薬を飲むだけですべての病が永続的に治るわけではない。当然ながら、日頃の食生活も改善しなければならないのだ。

また、風邪を引いたときの“定番”として同社の製品を愛用してほしいという理由もあるという。

橋口氏は、「創業最初から構想にあった」という薬膳おかゆと医薬品の販売を、満を持して今年スタートさせたのだ。

風邪をひいたときにSNSにアップする“習慣”とは?

今後の見通しを聞くと、2020年内には現在の博多の店舗に加え、さらに2店舗オープン予定だといい、2021年には東京進出も計画しているという。

「現在の宅配範囲は、博多の店舗から半径1.5km以内です。一見狭いように感じますが、店舗を構えているのは博多の一等地。天神と博多エリアのどちらも訴求できるのは強みです」


10月24日からはUbereatsの配達もスタートした。 最短で10分で医薬漢方と薬膳おかゆを届けられるようにしたのは、体調不良に陥ったときに消費者がもっとも望んでいることに迅速に応えたかったからだ。

「体温を測って熱が出たときは、外出を控えますよね。その後、熱は上がるかもしれないし、すぐに治るかもしれない。どちらの結果になっても、不安感が募っているときは早急に対策を打ちたいはずです。その悩みを解決したかったんです」

現在、4期目に突入した同社は、売上は6.3億円、経常利益1500万円にまで成長する見込みだ。

ここまで順調に業績がのびた理由は、消費者から支持されるヒット商品を確実に生み出してきたからだ。

「現在発売している漢方は14点。その中でアユミンSとEGタイトlightの2商品が高い人気を集めています」

このうちの1つの漢方は、“ダイエット訴求” とも呼ばれるもので、皮下脂肪やむくみを減らす効果が謳われている。

「アユミンSの主要購買層は、これまで40代の女性が中心でした。が、蓋を開けてみれば50〜60代の方々の支持もいただけました。 EGタイトは若い世代30〜40代の方が中心。人気が拡大していたしていった理由の一つに、SNSでの拡散があることは間違いないです」

実は、同社は製品開発の時点で明確にSNSでのPRを意識していた。

「従来、漢方薬のパッケージは堅苦しいものが多かったのですが、Instagramで投稿してもらえるように“インスタ映え”を意識しました。とは言え、いきなり漢方薬をアップする人は少ないですよね?もともと、Instagramを観察していて、人々の“ある傾向”からこのパッケージが思い浮かんだんです」

どういうことか。

「ここ数年、風邪をひくと体温計の温度をSNSにアップする人が多いんですよね。『38℃も出ちゃいました…苦しい』とか。そういう投稿、見たことありませんか?」

橋口氏は、この行動習慣に目をつけた。


「風邪を引くと、みなさんSNSを更新するんですよ。その体温計写真に加えて、弊社の漢方薬を投稿してほしいと考えたんです。そのため、インスタ映えするパッケージは必須の条件でした」

Instagramと言えば、若者向けのSNSという印象が強いが、橋口氏いわく「それは大きな誤解です」と反論する。

「実は、50〜60代もPCよりもスマホでかなりネットを見るデータが取れています。もともと、私がECの事業に長く携わっていたこともあり、ネット上での消費者行動については知見がたまっていました。 他にもyahooやGoogleへの広告出稿をしていますが、40〜50代のスマホユーザーのインプレッションがかなり高いというデータがとれています」

綿密なSNSマーケティングは、見事橋口氏の仮説を裏付けるようにヒットにつながったのだ。

なぜフリーペーパーを郵送するのか


「MAKUAKE」より

今回新たに販売を開始した薬膳おかゆは、パッケージデザイン以外に、味にも自信があるという。

「福岡では有名な食品加工業メーカーにいる専属調理師の方に味付けをしてもらいました。漢方薬療法に基づいた薬膳おかゆで、効能を謳うこともできて、風邪の時以外に食べてもおいしい。大久保愛薬剤師の監修のおかげもあり、理想の商品ができました」

ほかにも、購入者には月一回発行される漢方薬の知識が深まるフリーペーパーを郵送している。

「WEBマーケティングの用語でいう“読了率”は、メルマガより、ホームページより、ダイレクトに届ける冊子がもっとも高いんです。商品購入時以外で弊社についてリアルの場で興味を持っていただくためにも、今後も冊子の郵送は続けていきたいですね」

“株主消費者”は何がよいのか

ここまで、綿密に練られた同社のマーケティングについて話を伺ってきたが、漢方生薬研究所の強みはもう一つある。

それが、株式投資型クラウドファンディングFUNDINNOで資金調達をしている点だ。

なぜ、これが同社にとって“強み”となっているのか。

「そもそも、弊社がFUNDINNOで資金調達を実行した理由は、 “株主消費者”という、消費者でも、単なる株主でもない、両者を兼ね備えている方々とのつながりを持ちたかったからです」

なぜ“株主消費者”とつながることを望んだのか?

「たとえば、すでに弊社の商品を累計40万円以上購入いただいているお客様もいらっしゃいます。こうしたお客様は、単なるユーザーさまというよりは、もはや漢方生薬研究所のファンと捉えています。そうした方々にはぜひ消費者という立場ではなく、弊社の成長を支援していただきながら商品も愛用していただきたいと考えています。FUNDINNOで投資した株主の方は、弊社の商品を5%引きでご購入いただけます。商品のファンであり、会社を支えていただく方が増える仕組みをつくりたかったんです」

消費者であり、株主ならば商品やサービスに対するフィードバックもいただけるはず、という橋口氏の仮説は見事に当たった。

「ダイレクトに今後の戦略のヒントを株主消費者の方からはいただけています。これは弊社にとってのメリットがかなり大きいのです。2020年以降はさらなる店舗拡大と東京進出を見据えています。全国に株主がいらっしゃることは博多に本社を構える弊社にとっては強みとまります」

より長期的なビジョンとしてはどのような戦略を見据えているのか。

「今見据えているのは東アジア市場。越境EC進出は中国やタイを筆頭に進めていきます。また、漢方のネット販売が好調なため、ウェブマーケティングのノウハウ自体を他社に提供して広告代理業も始める予定です」

健康を、一人でも多くの人に、早く、確実に届けたい。

そんな同社の想いは、翌年も“株主消費者”とともに全世界を駆け巡る予定だ。