FUNDINNOで資金が“集まる会社”とは?2250万円調達のカギは、「頼らない力」<琉球アスティーダ社長・早川周作氏>

2020年4月23日 発行者情報

2019年12月、卓球プロリーグであるTリーグに参入する「琉球アスティーダ」を運営する琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社は、株式投資型クラウドファンディングFUNDINNOで151人の投資家から2250万円の資金を調達した。同社は、沖縄発のローカルなスポーツチームながら、日本全国の投資家から応援を募った形だ。

同社を率いるのは、卓球は未経験、スポーツビジネスの経験もゼロの早川周作氏だ。

琉球アスティーダスポーツクラブ社長早川周作氏(右)

10代で父親の蒸発を経験し、学生起業、衆議院選挙出馬と怒涛の経験を積み重ねてきた彼は、なぜ卓球チームを束ねることになったのか。そして、プロスポーツチームが資金調達をする場として、株式投資型クラウドファンディングFUNDINNOを選んだのはなぜなのか。

「始めるまでは『稲中卓球部』を読んだくらい。スポーツビジネスの知識はゼロだった」と豪語する彼に、その真相を聞いた。

見えてきたのは、「勝てる市場」で「ファンビジネスの可能性」を見出した、彼の世界を見据えた大いなる野望だった。

◆スポーツビジネスは、“生の観戦”以外にも広がる時代へ

試合会場の様子

琉球アスティーダを率いる早川氏は、卓球教室、鍼灸院、スポーツジム、卓球バル、スポーツバル、手前事業などさまざまなビジネス経験を経て、現在は沖縄県内でスポーツジムの運営のほか、レストランを経営している。こうしたビジネス基盤が琉球アスティーダを強力に支えている。

だが、今年3月から猛威を振るう新型コロナウィルスの影響で、現在市況は大いに荒れている。飲食店の営業に影響は出ていると思われたが、それに対する彼の回答は意外なものだった。

「幸い、どの店舗もインバウンド向けではなかったため、大きな影響を受けてはいません。うちのお店はもともと地元の方の利用が97%。なので、緊急事態宣言以降は、沖縄県内で運営しているレストランはテイクアウトとデリバリーに切り替えました。おかげさまで、すでに多くの注文をいただいています。今後も変化には迅速に対応していきたいです」

むろん、「迅速に対応」という点では琉球アスティーダもその例外ではない。現在取り組んでいる施策を含めて、チームはアフター・コロナにおいてどのようなビジョンを立てているのか。

「現在、多くの企業がZOOMなどのオンラインミーティングに移行しているのと同様、スポーツでもその流れを加速させていきます。卓球は生で見てもおもしろいですが、オンラインで見る映像でも充分楽しめます。我々はYou Tubeチャンネルのほかにも、オンラインサロン、TikTokなど複数のSNSを駆使してニッチなマーケットでファンを増やす施策を強化していきます。我々は、濃いファンを増やしていきたい。濃いファン層が集まれば、チームに落とす単価があがります。そのためにも、卓球をマイナースポーツから脱却させたいのです。そして、我々はすでに世界にも目を向けています」

実は、沖縄発の球団はすでに世界にも目を向けているのだ。

「新型コロナウイルスの騒動が落ち着いてから、中国の上海と青島で市民が卓球を楽しめるイベントをやろうと思っています。また、中国版ニコニコ動画であるビリビリ動画のチャンネルも開設し、スタジアムに来なくても楽しめる卓球を提供したい」

早川氏は世界中にファンがいるチームを目指している

では、“スタジアムに来なくても楽しめる卓球”とはなにか。

「従来のスポーツビジネスは、チケット収入や来場者からの売上げがないと経営が厳しいという風潮でした。が、私は実はそうじゃないと思っている。たとえば、スタジアムで遠い席から試合を見るよりは、2階からカメラで試合をダイナミックに映した映像で応援したいという人も一定数いるはずです。そちらのマーケットを増やしたい。生で観戦する魅力も、映像で観戦する魅力も同じくらい提供できる“テクノロジースタジアム”をつくりたいのです」

新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、スポーツビジネスは「チケット収入と来場者数だけで勝負する時代は終わった」。それが早川氏の見解だ。

◆テクノロジースタジアム”構想が生み出す真の価値

異業種と卓球チームがタッグを組むのが琉球アスティーダの特徴だ

では、スタジアムに来ないファンを取り込むスポーツビジネスとはどのようなものなのか。

早川氏によると、彼らの満足度を上げるためには、最新の高解像度カメラやドローン、データの提供など様々な企業とタッグを組むことになるという。

構想しているのは、科学技術とスポーツを組み合わせ、相乗効果を生み出すことだ。

「ほかにも、東大発のベンチャーとタッグを組み、スポーツと技術を組み合わせたプロジェクトを予定しています。『スポーツ×AI』や『スポーツ×VR』など、コラボレーションは無数にある。最先端のテクノロジーは、その技術をアピールする場がどうしても少ない。そこで、最先端のテクノロジーを持っているのに、まだ光があたっていない会社をスポーツというプラットフォームでアピールしたいのです」

◆卓球はズブの素人。「最初は『稲中卓球部』を読んだ」

そんな未来の構想を次々と語る早川社長だが、琉球アスティーダを設立した当時は「卓球について全然知らなかった」という。

「これまで選挙に出たり、学生起業したり、いろいろなことをしてきましたが、スポーツ経験はほぼありませんでした。卓球チームをつくって、最初は『稲中卓球部』を読んだほど。取材に訪れた記者に笑われましたよ(笑)」

早川氏に言わせれば、「日本のスポーツ業界は、かなり保守的」。

「端的に言えば、IT業界などほかの業界よりも注目を集めやすい。経営感覚を持って運営すれば結果は出やすいと思います」

早川氏はスポーツ業界を“勝てる市場”と判断して飛び込んだのだ。そして、彼はその市場はさらに大きくなると見込んでいる。未経験ながらスポーツビジネスに参入したのは膨大なシミュレーションの中で“いける”と判断したからだ。

「東京オリンピックは来年に延期になりました。これをどう受け止めるか。私は“オリンピックのPR期間がさらに伸びたチャンス”と捉えます。現在進行形で対策が講じられている新型コロナウィルスによって、世界の連帯感は増しています。こうなれば、オリンピックがさらに注目される。ピンチはチャンスなんです。先程申し上げたスポーツ観戦のオンライン化は、マーケットそれ自体の拡大を意味します」

◆日本のスポーツビジネス3つの課題

ここまでの話を聞けば、順調な道を歩んでいるようだが、日本初のスポーツチームの上場を目指すにあたり、困難がなかったわけではない。

「もともと、この業界に参入するきっかけをつくってくれたのは元卓球のプロ松下浩二さんです。彼が『5歳ではじめて15歳でオリンピックに出られるスポーツって、卓球しかない!』と話してくれて強く共感したんです。卓球って、貧富の格差を是正できる数少ないスポーツなんです。だから、世界で活躍する卓球選手を私でも育てられると思いました。しかし、立ち上げた当初は大変でした。プロリーグのチームを引き受けるための受け皿となる会社を取り急ぎ設立する必要がありました。当初、球団を立ち上げる際には前提条件としてスポンサー企業から6000万円を集められるはずだったんです。が、それがナシになり、資金はたったの100万円。そこが一番苦労しましたね。そこからエンジェル投資家から3400万円、ベンチャーキャピタルとテック系の企業から4000万円出していただきました。そして昨年12月のFUNDINNOで2000万円集めて、いま約1億円ほどの出資を得ています」

なんと、ここまでわずか1年半。資金難を乗り越え、これだけ資金が集まったのは、同社が投資家からビジネスの可能性を大きく評価されたからにほかならないだろう。

なぜここまで注目を集めるのか。それは、早川氏がスポーツビジネスを的確に分析していたからだ。

「現在、日本のスポーツビジネスに課題が3点あります。言い換えれば、この3つを解決すれば一気に成長するのです。1つはガバナンス。どんな風にお金が使われているかわからない。経理と財務が一緒の球団なんてざらにある。これでは健全な経営ができるわけがありません。2つ目はディスクロージャーされていないことが多いこと。自分が預けたお金がどう使われているかわからない会社に出資したくはありませんよね? PLとBSが見られない会社に出資はしないのです。私が琉球アスティーダを上場できる企業にしたいのは、PLとBSをすべてオープンにし、より広く出資を集めたいからです。3点目は、一社もIPOできた会社がない点です。イタリアのサッカーチームACミランに代表されるように、海外のプロスポーツチームの中にはIPOしている会社が少なくありません。上場などEXITが期待できるならばより多くのお金が集まります。ところが、日本のプロスポーツチームは様々な制約から上場できていません。私はそういった前例を覆していきたいのです」

将来、琉球アスティーダがプロスポーツ業界の歴史に名を刻む存在に、名の残る存在になったとしよう。そのとき、このチームは単なるプロスポーツチームの域を超え、企業としての価値が大きくあがっていることは想像に難くないだろう。

◆溜池山王なら2人で行ける。宇宙は2人でいけない

「FUNDINNOで資金調達すれば投資家25000人に一気に知ってもらえる」

早川氏の綿密な戦略とプレゼンにより、エンジェル投資家と企業から資金調達を達成した琉球アスティーダ。だが、それでもFUNDINNOで資金を募ったのには深い理由があった。

「琉球アスティーダを、世界にファンがいるチームにしたいんです。となると、多くの人を巻き込む必要があるし、タッグを組む相手も数人ではなく数百人数千人になるわけです。正直、資金調達だけが目的ならば、今回FUNDINNOで調達できた2000万円なんて社長数人に声をかければ集まると思うんです。それでも我々が151人の投資家の方から応援いただいたのは、たくさんの方に応援していただき、巻き込みたいからなんです」

早川氏の主張はこうだ。

近くに行くなら、数人で充分。でも、遠くの見えない景色を見に行くなら、多くの人と協力しなければ絶対に行けないーー。

「いま、私が六本木にいて、溜池山王まで向かうなら、2人でも行けます(六本木と溜池山王は2km程度)。私一人でも歩いて行けるし、ひと駅分疲れたら誰かに歩いてもらえればいい。でも宇宙まで行きたいなら、2人では絶対に行けない。ロケットの開発者からロケットに乗る人、燃料を運んでくれる人までいろんなスタッフが必要です。FUNDINNOの元取締役である松田悠介さんからは、『FUNDINNOで資金調達すれば投資家25000人に一気に知ってもらえます』と言われたんです。それが決め手でした。これって、タダで広告を出してもらって、かつ25000人に事業計画を見てもらえるっていう意味です。こんな環境、なかなかないでしょ?」

早川氏はFUNDINNOというプラットフォームが単なる資金調達の場ではなく、自社サービスのPRの場であると自身で解釈したのだ。

「FUNDINNOで資金を集めた理由はほかにもあります。私は、これからのスタートアップは社会課題に対する解決策を提示しなければ事業として成長していかないと思っています。琉球アスティーダの場合、貧富格差と地方格差の是正がそれに当たります。こうした社会課題に関心を持っている人は沖縄だけでなく日本各地にいます。沖縄の会社だから、沖縄の企業からだけ出資を募る形は取りたくなかったのです」

◆潰れない会社になるための“3つの車輪”

早川氏は、すでに卓球にとどまらない先のビジョンを描いている。

「スポーツチームとして初の上場を目指していますが、IPOはあくまで通過点。琉球アスティーダが成功した後は、魅力はあるが、いまいち売上が立っていない他のスポーツチームのコンサルティングをして、JリーグやBリーグのチームともどんどんタッグを組んでいこうと思っています。スポーツビジネスが循環する仕組みをつくり、地域を元気にする。その時、応援してくれる人や企業は地元だけじゃない。今回FUNDINNOで2000万円以上集まったこともあり、私はそれを確信しています」

今後も、FUNDINNOではさまざまなベンチャー企業が資金を調達する。また、早川氏の言葉を聞いて起業を志す者もいるはずだ。

そんな未来の起業家に対して、早川氏は「つぶれない会社の法則」としてこんなメッセージを残してくれた。

「私は、会社は潰れないために“3つの車輪”が常に回っていなければならないと言っています。ひとつが、日銭を稼げているか。弊社の事業の場合、飲食店とスポーツジムの運営がそれにあたります。これは日々の資金繰りに困らないようにするためです。最近はこれにYou Tube配信が加わりました。新型コロナウイルスの感染拡大対策で、デリバリー専門にしていますが、それまでは飲食店だけで一日100万円以上の売上が出ていました。毎日お金が入ってくる仕組みがあることはとても大事です。ここで固定費がまかなえるからです。2つ目は、ストック収入。弊社の場合、コンサルティング事業がそれに当たるでしょう。これは月次ベースで入ってくるお金です。日銭に加えて、毎月かかる固定費をここでまかなえます。最後が、内部留保がある上で始める新規事業。メーカーならば、資金調達をして新しい部品や機械を取り入れて新製品をつくるように、3ヶ月単位や年次で売上が入ってくる事業です。ここを掘ることで跳ねるビジネスを生み出すわけです。かつてのように、毎月赤字だけを垂れ流していつかドカンと大きな黒字を出す企業のモデルはなかなか生存するのが難しくなっています」

毎日、毎月必ず売上が入る仕組みをつくる。土台がしっかりしている企業でなければ、大きく飛躍することはできない。

◆FUNDINNOで「集まる企業」と「集まらない企業」。なにが違う?

さらに、琉球アスティーダがFUNDINNOで資金調達することができた理由についてはどのように考えているのだろうか。“集まる企業”の特徴は、「クラウドファンディングだけに頼らない企業」というのが早川氏の主張だ。

「株式投資型クラウドファンディングは、自社のビジネスを多くの方に知ってもらえ、プラットフォームを通してスピーディに数千万円の資金調達をしやすいというメリットがあると思います。約25,000人の投資家を抱えるFUNDINNOもその例外ではありません。だからこそ、私は思うところがあります。はっきり言って、FUNDINNOに頼るなと言いたいのです。企業としてのPR戦略を考えるうえで、いままでの人脈やリソースを最大限使ってやる企業がFUNDINNOで資金調達できるのです。逆に、目標金額に達成できなかった企業の中には、FUNDINNOというプラットフォームに依存して丸投げしているケースが多いのではないでしょうか。募集を開始したあとは、FacebookやTwitterで投稿するのはもちろん、事前に投資家の方に興味を持ってもらえるように自社サービスの明確な説明をしているページや動画を用意するなど、下準備が重要です」

事実、早川氏もFUNDINNOでの募集開始に合わせて、SNSで一斉に応援をお願いする投稿をしたという。

「あくまで、FUNDINNOは助け舟ではなくタッグを組む相手。依存するのではなく、一緒にやっているという意識と行動をとるべきです」

すでに仲間や応援してくれる人がいる企業が、さらに仲間を増やすためにFUNDINNOを使う。それが早川氏にとってのFUNDINNOで成功するコツなのだ。