日本国内初。プロスポーツチーム上場を支えた“ファン投資家”の存在 <琉球アスティーダ早川社長×FUNDINNO>

2021年5月10日 コンテンツ

それはまさに、“初づくし”の上場でした。

2021年3月30日ーー。

その日は、国内の株式市場において歴史的な一日となりました。

国内初、プロスポーツチームでの上場。

さらに、その種目は卓球。

そしてこの上場、株式投資型クラウドファンディングで資金調達した企業で初の事例でもありました。

そんな“初づくし”で上場を果たしたのが、TOKYO PRO Market(以下、TPM)に上場した、沖縄県中頭郡中城村に本社を構える琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社(以下、琉球アスティーダ)です。

琉球アスティーダは同名の卓球チームを運営するプロスポーツチーム運営会社で、2018年に設立されたスポーツチームとしては極めて若い会社です。

同社は2019年12月、株式投資型クラウドファンディングのFUNDINNO(以下、ファンディーノ)で資金調達を実施。

目標金額1000万円、上限2300万円に設定し、151人の株主から2250万円の調達に成功しました。

それからわずか1年と3ヶ月。

FUNDINNOで資金調達した企業として初の上場を果たしたのです。

琉球アスティーダは、なぜ上場を果たせたのか。

どうやって上場したのか。そして、株式投資型クラウドファンディングがこの上場をどう後押ししたのか。

同社の早川周作社長に話を聞き、記事後半ではFUNDINNOを運営する日本クラウドキャピタルCEOの柴原祐喜、同社マーケティング部の馬渕磨理子も参加し、この上場がもたらしたインパクトについて議論しました。(鼎談はリモートで行われました)

◆「上場って、意外とできるんですよ」

「FUNDINNO含む株主さまには上場を驚かれましたが、本当に目指していたので上場できた。上場って意外とできるんですよ(笑)」

早川氏はやや冗談交じりにこの奇跡を振り返ります。

国内プロスポーツチーム運営会社として初の上場。この上場の意義はなんでしょうか。

「一口で言えば、価値の算定が明確化したことです。これまで、スポーツをはじめとした興行全般は非常にふわっとしたところのある業界でした。具体的に言います。ガバナンスが弱く、明確な企業価値の算定がされていない。今回上場した最大の意義は、そうした問題が解決に向かい、客観的に価値の算定が行われ始めたこと。今回の上場で、地元沖縄の企業様や、株主の皆様が安心してお金を出して頂けるような状態になりました」

一般に、スポーツビジネスの場合はどうしてもチームの成績に業績も左右されます。

チームの順位が良い時はスポンサー収入も増えるので業績も良くなる一方、順位が低いとお金が集まらない。

結果、よい選手も揃えられなくなり弱小化するというジレンマを抱えています。

早川氏は「この問題を解決している点が琉球アスティーダの特徴だ」と語ります。

「弊社は沖縄県内で展開するレストランの飲食事業に加え、現在、沖縄でアスティーダスポーツパークという施設を作っています。アスティーダスポーツパークは、卓球場はもちろん、屋内のフットサルコートや身体のケアをする鍼灸院やパーソナルジム、栄養を考えたメニューを取りそろえたフードパークなども入っております」

「こうした施設を整えることで、チームの成績に左右されにくいキャッシュポイントを複数作っています。それがよい選手を集める資金源、そしてチームへのロイヤリティを高める理由となっています」

◆九州アスティーダ設立。その意図は「成功事例の横展開」

さらに4月19日。

この日、早川氏は記者発表会を開き、卓球Tリーグ女子に所属する九州アスティーダの設立を正式に発表しました。

今後は沖縄だけでなく、全国で「アスティーダ」を展開していくのでしょうか。

「前述したアスティーダスポーツパークのような場所と仕組みは他の場所でも可能で、また地方創生との相性も非常に良い。狙っているのは琉球アスティーダという成功モデルを他地域でも展開している横展開です。そして、種目は卓球に限る必要もありません。フットサルでも、バスケでも、地方創生につながるスポーツビジネスを展開できます」

◆株式投資型クラウドファンディング初上場で見えた辛苦

こうして上場という第一章が終わり、全国展開という第二章に突入する琉球アスティーダ。

その第一章はここまで読むと順調に見えるものの、大きな困難があったそうです。

「FUNDINNOのファン投資家様を含む多くの方の応援をいただけました。その一方、株式投資型クラウドファンディングを使った上場はすごく大変な面もありました(笑)。例えば、株主の方々が反社会的勢力でないかのチェックは、FUNDINNOで一度チェックしたとしても、東京証券取引所でまた一からするんです。他にも事務手続きでこうした“二重の作業”を強いられました」

一方、早川氏はこの現状を「それだけ前例がなかったからの証拠。今後はこの状態が良くなっていく可能性があるでしょう」と今後の“常識”が変化していくと予測しています。

ここまでの早川氏の上場までのエピソードを聞き、FUNDINNOを運営する日本クラウドキャピタルCEO柴原祐喜は、「株式投資型クラウドファンディングでの上場という道を切り開いていただいたことに感謝したい」と語ります。

「早川さん、まずは上場おめでとうございます。国内初の株式投資型クラウドファンディングというサービスを開始した当社にとって、とても嬉しいニュースでした。現在FUNDINNOで資金調達したベンチャー企業にとっても大いに希望となるニュースです」(柴原)

「おっしゃっていた上場における苦労された点ですが、もし、今後FUNDINNOを使って資金調達する場合、普通株ではなく新株予約権を使うという方法も検討していただいてもよいかと思います。新株予約権を購入する場合は株主ではないので、こうした事務作業の煩雑な手続きは大幅に簡略化されます」(柴原)

新株予約権とは、株式を購入するのではなく新株予約権を発行会社に対して行使することにより、当該発行会社の株式の交付を受けられる“権利”のこと。

一般に、あらかじめ決められた期間(権利行使期間)内にその権利を行使することにより、その会社の株式を一定の価額(転換価額)で取得することができます。

早川氏も「複数の選択肢があるのは上場を目指すベンチャー企業にとってはよいこと」と新株予約権の選択肢も視野に入れるとのことです。

◆上場まで資金調達からわずか1年強。TOKYO PRO Marketの魅力

では、琉球アスティーダが上場したインパクトは株式市場にどのようなインパクトをもたらしたのでしょうか。

現役のアナリストであり、日本クラウドキャピタルマーケティング部の馬渕磨理子はこのインパクトの大きさを痛感している一方、「法的な面での規制緩和の努力が今後必要になるかもしれません」と語ります。

「金融業界において、改革を行う場合、煩雑な手続きや意思決定まで時間を要する理由は理解しています。とはいえ、今後は琉球アスティーダさんのようなモデルが増えていくのは間違いありません。株式投資型クラウドファンディングが人口に膾炙すれば、政界も金融庁もこれに対応せざるをえない動きになっていきますし、そうであってほしいです」(馬渕)

「たしかに、今回の上場は日本クラウドキャピタルさんを含め、多くの方に助けて頂きました。が、馬渕さんのおっしゃるように政治的なロビー活動も必要になっていきますね」(早川氏)

そんな馬渕がもっとも気になるのは、琉球アスティーダが上場する場所としてTPMを選んだ点。その意図はどこにあったのでしょうか。

「一般的にTPMのメリットとして言われる、オーナーシップを維持したままでも上場できたり、上場の指導・審査・モニタリングをアドバイザーが行ってくれるなど地方企業と相性がよいという理由はもちろんあります」(早川氏)

「が、それに加え、上場までのスピードが早い点も魅力です。主な株式市場では2期分の監査証明が必要で短くても3年かかりますが、TPMの場合は1期分でよいので早ければ1年以内に上場できますから。実際に弊社はFUNDINNOで資金調達してから1年ちょっとで上場しました」(早川氏)

馬渕は「今後も株式投資型クラウドファンディングで急成長するような企業様の場合、TPMからの上場のケースが続くでしょう」と予測します。

「今回の琉球アスティーダ様の上場で良い刺激を受けたという企業が多いようです。今、FUNDINNOで資金調達をする多くの経営者とお会いすると『琉球アスティーダに続くぞ』とおっしゃっています」(馬渕)

◆「上場に5000万円かかった。それでも地方企業は上場する価値がある」

これを受けて、早川氏は「特に地方の企業は上場すべきだと思っています」と主張します。

「沖縄で言うと上場している企業は10社もないんですよ。上場することで名だたる企業と同列になり、地元メディアもたくさん取り上げてくれます。さらに地元の有力企業として扱われると、今度は採用で良い人材が集まりやすくなったり、地元の有力企業と協業の可能性がぐっと広がる。副次的効果が計り知れないのです」(早川氏)

今回の上場には「5000万円かかった」と言いますが、「それでも地方企業は上場する価値がある」と断言する早川氏。

また、その手段として株式投資型クラウドファンディングが選ばれることは今後より増えていく可能性が高いようです。

「私たちのようなプロスポーツチームもそうですし、この他にも地方創生を標榜しているビジネスは、地元の金融機関などからお金を集めなければ…と考えてしまいがちです。その結果、小さくまとまってしまう。違うんです。地元の方に支持をされながらも地方のベンチャーは資金調達もファン集めも“脱・地元”で進んでいくべきなんです」

「その手段が全国から資金を集められるクラウドファンディングだ」というのは早川氏の考えです。

◆“こころのふるさと”がベンチャー企業の成長を後押しする

「例えば、沖縄の人口は現在約145万人です。が、東京はこの10倍近くの人口がいます。人口が多いということは、その分だけお金を出したいというニーズも大きい可能性があるということ。応援してくれる人のエリアを地元にこだわることは機会損失なんです」(早川氏)

今後は、ワーケーションがさらに浸透し、「第二、第三のふるさと」が増えてくると馬渕はこれに同意します。

「いま住んでいる場所ではない場所に本社を構える企業を応援したい人と企業をマッチングするサービスが株式投資型クラウドファンディングとも言えます。私は大学を京都で過ごしましたが、いま東京に住んでいても京都を盛り上げようとするベンチャー企業があれば投資する可能性は高いです。“こころのふるさと”は誰にでもあります。この“こころのふるさとを持つ人”と“こころのふるさとのベンチャー企業”とのマッチングが進むと、適切な場所に最適なお金が集まる。こうした“なめらかな社会”が琉球アスティーダモデルの成功によってより進んでいくと思います」(馬渕)

“国内初づくし”の上場の背景には、こうした地元に限らないファン層の拡大と、株式投資型クラウドファンディングによるスムーズな資金調達があったのです。

早川氏はこの鼎談の後半で「もっとベンチャー企業は上場を本気で目指していい」と今回の上場を振り返りました。

「これは最近よく話させていただくことなんですが、野球をやっている人がプロ野球選手になる確率よりも、企業が上場する確率の方が低いらしいです。野球は小学生からスタートしてプロになるまでに十数年かかります。それでもプロになれない少年がほとんどです。でも、上場は私たちのように数年でも可能なんです。たった数年ですよ?大変ですけど(笑)。なので、FUNDINNOで資金調達する企業はぜひ本気で挑戦して目標を実現してほしいですね。応援してくれる株主様がたくさん集まりますから」

プロ卓球選手のラリーのようにテンポよく進んだ鼎談は、琉球アスティーダのさらなる進化を予感させる形でゲームセットとなりました。

FUNDINNO投資家お祝いコメント

2021年4月26日に行われました、第10回FUNDINNOみらい会議にご参加いただいた投資家の方より頂戴した、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社様へのお祝いコメントをご紹介させていただきます。

“FUNDINNO案件初の上場、おめでとうございます!是非、マザーズ市場などへの上場も検討頂ければと思います。”

“ビジネスのスタートアップから拡大、成長戦略の過程で必要な経営資源を獲得する手立ての多様化が示された第1号だと思います。励みになります。おめでとうございます。”

“この度は上場おめでとうございます。初の上場会社に出資することが出来て嬉しく思っております。これからも上市を目指して走り抜けてもらいたいです。”

“上場おめでとうございます。次は日本一、そして世界一の卓球チームを目指して頑張ってください。”

“上場おめでとうございます。当初の計画通りに現実をまわしていくのはさぞかし大変な事だったかと思います。お疲れ様でした。おめでとうございます。”

上場までの歩み

PICK UP|TOKYO PRO Marketって何?

この度、琉球アスティーダスポーツクラブ株式会社様が上場された、東京証券取引所運営のTOKYO PRO Market。

東証一部/二部、マザーズ、JASDAQに次ぐ市場なのですが、まだまだ知らない方も多いこの市場について、簡単に説明させていただきます。

TOKYO PRO Marketとは?

TOKYO PRO Marketは東京証券取引所が運営する取引所の一つで、国内唯一の「プロ投資家向け」の市場となっています。

プロ投資家とは特定投資家のことで、国、日本銀行、適格機関投資家、上場会社、資本金5億円以上の株式会社、3億円以上の純資産もしくは金融資産を保有し、1年以上の取引経験を有する個人などが該当します。

TOKYO PRO Marketの特徴

先述の通り、TOKYO PRO Marketで投資できるのはプロ投資家に限定されているため、上場にあたっての基準が比較的緩やかになっているのが特徴です。

他市場で基準に挙がる株主数や売上高・利益の額などは上場基準に含まれませんが、J-Adviserと呼ばれる東京証券取引所指定のアドバイザーによる調査・確認があります。

TOKYO PRO Marketに上場するメリット

一般的に言われているメリットとしては以下のようなものが挙げられます。

・企業としての信頼性向上

・優秀な人材の確保

など、特に大きなメリットはやはり信頼性の向上で、東証における証券コードが発行されるのは大きな信用となります。また、監査法人の監査や決算情報の公開などにより企業としての透明性も高まります。