エグジット=「出口」が事業の新たな「入口」を決める

2019年9月17日 コンテンツ

「なぜ、ベンチャー投資をするのか?」という問いに対する投資家の解の一つは「キャピタルゲインを得るため」でしょう。キャピタルゲインとは、株式売却時と元本の差額から生まれる利益です。ベンチャー企業の創業者やVC(ファンド)や投資家が、株式売却をして利益を得る、つまりキャピタルゲインを得ることを、エグジット(EXIT=出口)別称ハーベスティング(Harvesting=収穫)と言います。

キャピタルゲインを得ることを目的としている投資家に投資してもらうベンチャー企業側は、事業計画において出口計画(EXIT PLAN=エグジットプラン)を明確にする必要があります。出口計画とは、将来、IPO(株式公開)するのか、M&Aで事業売却するのか、他の方法をとるのか、その時期はいつ頃なのか、どのくらいのリターンがもたらされそうなのか(エグジット時点での目標利益率はIRR(内部収益率。投資期間内における1年あたりの利回り)で15%〜30%程度とするのが一般的)などです。

起業した後の経営者のミッションの一つが、ビジネスの継承です。ビジネスを次のステージに上げていくことと捉えるなら、エグジットは単なる出口ではなく、新たな「入り口」であるとも言えるでしょう。

エグジットの主な方法には、IPO、M&A、株主コミュニティ、その他があります。

①新規株式公開(IPO)

創業者等既存株主が所有していた株式を、上場によって市場に流通させる方法。上場時には株価が大きく上昇することも多く、そのタイミングで株式を売却して投資資金の回収を図るエグジット戦略です。

  1. メリット
    ①企 業:経営者が経営権を握った状態で、更なる成長を目指せる
    ②投資家:M&A等に比べて既存投資家の得られる利益が多い
  2. デメリット
    ①企 業:買収リスクが高くなる
    ②投資家:実施されるまでに費用や時間がかかる

②M&A

会社や事業の売却により現金化される方法。IPOより少ないものの多額の現金を得られるケースも多いです。アメリカではエグジットのほとんどはM&Aによるもので、日本ではこれまでIPOが中心でしたが、若手経営者を中心にM&Aへの抵抗感が少なくなっており、M&Aに対応した種類株式(優先株式)でのベンチャー投資も増えている中、ベンチャーのM&Aによるエグジットが増加傾向にあります。

  1. メリット
    ①企 業:短期間で高い確率でエグジットできる
    ②投資家:投資家:遂行されるまでの期間がIPOより短い
  2. デメリット
    ①企 業:経営者の権限が小さくなる(または無くなる)
    ②投資家:IPOと比べて利益額が少ない(または損失となる)

③株主コミュニティ

地域に根差した企業等の資金調達を支援する観点から、非上場株式の取引・換金ニーズに応えることを目的として、平成27年5月に創設された非上場株式の流通取引・資金調達の制度です。
平成30年3月に非上場株式を売買するための制度であったグリーンシートが廃止されたことから、非上場株式の取引手段として株主コミュニティが注目されています。

④:その他ーーーMBO、親族内承継など

・MBO(マネジメント・バイアウト):所有と経営が分離した会社で、会社経営陣が事業の継続を前提として自社などの株式を取得する方法。元の会社の所有者(株主)からの観点でエグジットの方法の一つと言われています。
所有と経営を一致させることが目的であり、その効果として新たな所有者兼経営者が意思決定しやすくなるので事業目標の達成に向けてスピードが上がります。

・親族内承継:日本の中小企業で一番多いのが親族内承継と言われます。従業員への経営継承の難しさからも、親族内継承が一般的になっています。親族ではない従業員を後継者にする場合は、その人物が株式を取得する資金を用意する必要があり、それがハードルになるからです。

ちなみにエグジットに近い言葉にバイアウトがありますが、その違いは立場から考えるとわかりやすいでしょう。エグジットは経営者自身または自社の立場からの言葉なのに対し、バイアウトは買収側の企業の立場からの言葉です。または手段で考えると、エグジットは前述の通り投資資金回収のための手段であり、バイアウトは、通常、株式の過半数以上を買収することで企業の経営権を得る手法です。日本では創業者が事業をセルアウト(売却)する意味でバイアウトという言葉が使われることもあります。

次回からエグジットシリーズとして①〜④それぞれのエグジット方法を解説していきます。