未公開企業への投資のリスクを定量化(アナリストレポート)/馬渕磨理子

2020年2月23日 コンテンツ

サマリー

過去未公開企業への投資は限られた投資家だけのものであったが、一般開放化に貢献した株式投資型クラウドファンディングFUNDINNOは、2017年4月からサービスを開始し、2020年1月で2年9カ月が経った。エグジットの成功事例としては、IPOやM&Aといったイベントにより何倍にもなるといった期待がある一方、倒産といった危険については、一般的には「大きい」といった認識のままではないだろうか。

今回はこの「危険」の定量化についてレポートしていく。アプローチの仕方として、上場企業、中小企業と、FUNDINNOで調達した企業の倒産の割合を比較していく。結論から述べると、上場企業、中小企業、FUNDINNOで調達した企業の倒産の割合は、上場企業を1とすると、『1:70:24』になることが分かった。2020年1月末現在では、FUNDINNOにおいて、資金調達した企業は上場企業よりも24倍の倒産リスクがあると言える一方で、一般的な中小企業は上場企業よりも70倍の倒産リスクがあると言える。

1.上場企業

東京商工リサーチによると、1989年以降でもっとも上場企業の倒産件数が多かった年は2008年の33件、2番目は2002年29件である。リーマンショックとITバブル崩壊の時期に倒産企業が増加している。2011年以降は倒産が急激に沈静化し、2017年は2件、2018年も1件にとどまっている。2019年の上場企業倒産は、1月に民事再生法の適用を申請したパン・ラスク製造の(株)シベールの1件だった。2019年末の上場企業数は3706社¹であるため、2019年の上場企業の倒産リスクは0.02%となる。(2018年は0.02%、2017年は0.05%)

(東京商工リサーチのデータより²)

2.全国の倒産件数

中小企業白書2019年のデータによると、廃業率は1996年以降増加傾向が続いているが、2010年に減少傾向に転じ、2017年時点では3.5%となっている³。2000年から2010年にかけては開廃業率ともに4%台で推移していたが、2010年以降はその差は年々拡大していることが分かる。また、総務省統計局には事業所レベルを含むデータが公開されている⁴。2016年の総事業所534事業所のうち80事業所が廃業しており、事業所を含む企業では年間15%の倒産リスクがあると言える。


(2019年版「中小企業白書」第5章:開廃業の状況より³)

3.FUNDINNO

FUNDINNOにおいて、解散、清算、破産等の手続を行っている企業は2020年1月末時点では株式会社ブレスサービスの1社である。同社の経緯は、FUNDINNOにおける第11号案件として2017年11月30日に、資金調達額3,525万円で成約した株式会社ブレスサービスが、2019年1月22日に東京地方裁判所への自己破産申し立てを行った。2018年8月にFUNDINNOにおける第47号案件としての2回目の募集をはじめ、他の資金調達も試みたが、いずれも実現にいたらず計画していた売上高を達成することが困難となった。2019年4月26日の債権者集会において、破産手続きは異時廃止(債権者への配当ができないため破産手続きを終了させるというもの)となり、株式会社ブレスサービスは消滅している。2017年4月からスタートしたFUNDINNOでは2019年1月末時点で資金調達企業は77件となっている。サービス開始からの2年9カ月で調達した企業を分母とすると、倒産した企業は1社のみのため、倒産リスクは1.2%と言えるであろう。

4.上場企業、中小企業、FUNDINNOの倒産リスクの比較

比較においては、年間で倒産した企業数を分子に、年初で存在していた企業数を分母としてその割合を比較していきたい。また年度としては、データがそろっている2017年の値を用いる。

2019年版 中小企業白書で公開されている廃業率(本レポートでは倒産リスクという)が2017年は3.5%。なお経産省より公開されているデータだと、事業所といった小さな規模の会社も含めると、2016年度の値が15%である⁴。

上場企業の倒産リスクは2017年度を基準とすると0.05%である。

一方、FUNDINNOは2017年4月からサービスを開始しているものの、起業数がまだ数多くないため、分母も分子も2年9か月の総計の値を用いる。そうするとサービスを開始から2020年1月末時点で計測すると倒産リスクは1.2%となる。

「上場企業の倒産リスク0.05%=1」を基準値とすると、

倒産リスクは

『上場企業:FUNDINNO:中小企業:事業所含む企業(参考)』=『1:24:70:300』となる。

以上から、FUNDINNOで資金調達を行った企業は上場企業に比べて24倍倒産リスクが高いものの、中小企業の3分の1、事業所含む企業の12分の1程度である事が分かった。これは、FUNDINNOにおいて資金調達する際に、二段階で審査が行われていることが倒産リスクを少なくしている結果となっていると考えられる。

FUNDINNOの審査とは、二段階のチェック機能を備えた厳正な審査である。審査資料に基づいて審査グループが中心となって審査を進め、審査会議において内部管理統括責任者、コンプライアンス部長、広告審査部長の全員一致で審査通過となる。その後、案件化され、FUNDINNOのプラットフォームに掲載されるが、目標募集額に到達しない案件は投資実行が行われない。FUNDINNOによる適切な審査を通過した後は、投資家の集合知による“審査”を通過しなければならないのである。

(日本クラウドキャピタル 馬渕磨理子)

※上場企業、中小企業はデータが公表されている2017年度で比較基準を一致させているが、FUNDINNOはサービスを開始して2年9カ月(2020年1月末)のデータでの測定としている。


¹ 上場会社数の推移 https://www.jpx.co.jp/listing/co/tvdivq0000004xgb-att/tvdivq0000017jt9.pdf

² 東京商工リサーチ 2019年「上場企業」倒産状況(速報値:12月27日15時現在)

http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20191227_01.html

³ 2019年版「中小企業白書」

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2019/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap5_web.pdf

⁴ 総務省統計局III部 企業・事業所 第7章 企業活動 7- 5産業,存続・新設・廃業別民営事業所数と従業者数

https://www.stat.go.jp/data/nihon/07.html