米国におけるECF(株式投資型クラウドファンディング)市場のアナリストレポート/馬渕磨理子

2020年3月31日 コンテンツ

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ベンチャーマーケットで先行している米国においては、2012年4月の新規産業活性化(JOBS法)に基づくクラウドファンディング規則(Regulation Crowdfunding、以下SEC規則)案が、2015年10月に米国証券取引所委員会(U.S Securities and Exchange Commission、SEC)により承認された。これを受けて、2016年5月から株式投資型クラウドファンディング(Equity CrowdFunding)が可能となった1。米国における株式投資型クラウドファンディング(以下、ECF)の市場規模は、スタートした2016年の約1,350万ドルをはじめとして、2017年に約7,120万ドル(前年度比約5.2倍)、2018年に約1億902万ドル(前年度比約1.5倍)にまで拡大している2。2019年には約1億360万ドル(前年比約0.9倍)となり、2016年のスタートから2019年12月31日時点で累計約3億ドル(約330億円)の調達総資金額となっている3。2020年度末には約5億ドル(約550億円)の市場に拡大すると推計されている。

(Crowdfund Capital Advisorsのデータより当社作成)

次に、米国におけるECFに参加している投資家の数の推移を見てみる。2016年の20,100人をはじめとして、2017年には77,500人(前年度比約3.9倍)、2018年には148,000人(前年度比約1.9倍)に拡大し4、2019年末時点で、累計1,110,000人を超えており、増加傾向にある。また、ECFで募集した案件は2016年174件、2017年は474件、2018年は763件、2019年は735件と推移している3

米国における2019年のECFの実績は、調達総額で約1億360万ドル、募集を行った企業は約735社となっている5。(2018年の調達総額1億9400万ドルに比べ、募集企業数は前年比で763社から4%減少)。案件数は微減しているが、資金調達額は拡大傾向にある。また、ECFのプラットフォームでは、WeFunderが31.1%、StartEngineが27.1%のシェアを占めており、どちらのプラットフォームも調達資金総額で1億ドルを超えている。

(Crowdwise:Reg CF Fundeing Potal Overview-for Investors6より)

2019年の米国ECFの資金調達状況を月別に見てみると、1、2、5、6月が軟調であることが特徴的だ。ナスダックの日足との相関を求めると、0.66と正の相関があることが分かった。2019年1月はAppleによる下方修正のアップルショック、5月にはNYダウの調整が入ったタイミングであり、センチメンタルの影響が出ている可能性がある。

(Kingscrowdの月次資金調達レポートより当社作成)

また、2019年はIPOによるEXIT事例も出てきている。ECFプラットフォームであるRepublicで2018年6月12日に628,558ドルを666人の投資家から資金調達を行った、CNS Pharma7(ティッカー:CNSP)が、NASDAQ取引所で2019年11月にIPOに至っている。今後のEXIT事例に期待が寄せられる。

米国のECFのプラットフォームのトップシェアであるWeFunder8は2020年1月までに、340社のスタートアップに1 億2000万ドルの資金を提供している。登録投資家数は486,155人(2020年1月26日時点)、そして、WeFunderによると、同社のプラットフォームを通して資金調達した企業に、その後ベンチャーキャピタルが20億ドル以上を投資している9

米国では上場する企業の数が毎年減少しており、一般投資家にとって、新規の価値ある企業に投資する機会が減少している。この流れは長期的なトレンドとなっている10。このようなトレンドは投資家にとっては、未上場企業へ目を向ける機会を創出することになり、さらにプライマリーマーケットだけでなく、未上場企業の株式が流通するセカンダリーマーケットへのニーズが顕在化してきてきる。そのため、米国では、セカンダリーマーケット整備が2019年に行われており、セカンダリーマーケットのプラットフォームが整い始めている。SeedInvestが 2019年7月31日にスタートアップ投資の二次取引を促進する代替取引システム(ATS)の運用について、FINRA(Financial Industry Regulatory Authority)の承認を受けたことを発表している11。また、StartEnginegは2019年7月25日にブローカーディーラーとして承認され、完全子会社であるStartEngine PrimaryがSECに登録され、FINRAの承認を受けている12。セカンダリー転送プラットフォームNetcapitalも存在している13。また、Microventures14が限定的にではあるがセカンダリーマーケットをスタートしている。

米国のECFにおいて資金調達を行う場合、12ヶ月の期間中に107万ドル(約1億170万円)まで、SEC(米国証券取引委員会)への登録をせずに資金調達を行うことが可能である。しかし、米国におけるシードラウンドの平均調達額は約220万ドル(約2億420万円)という現状から規制改革の動きが本格化している。今後、JOBS法の改正によって、企業の調達額上限の変更・廃止や、投資家の年間投資可能額上限の変更・廃止などが予想される15。世界的に調達額の上限や投資家の年間投資可能上限は廃止・変更の傾向にあり、このあたりは日本においても有益な示唆となりそうだ。