英国におけるECF(株式投資型クラウドファンディング)市場のアナリストレポート/馬渕磨理子

2020年5月28日 コンテンツ

目次

英国は株式投資型クラウドファンディング(Equity CrowdFunding、以下ECFという。)で先行しており、特に、2015年に市場が急拡大している。現在、Crowdcube、Seedrs、 Scottich Enterprise等の会社が多くのシェアを占めている。英国のECFは2011年にスタートし、2019年6月までに累計で1,161百万GBPの資金調達を行っている。企業は、VCやエンジェル投資家にアクセスするよりも、大手のECF業者を利用した方が効率的に資金にアクセスできると考えており、投資回収(エグジット)の成功事例も存在している。2018年には、英国の起業家の4人に1人がクラウドファンディングを通じてエクイティファイナンスを調達するまでに普及し、英国の16のユニコーン企業のうち、3社がCrowdcubeを利用したのち、ユニコーン企業となっている1

(野村資本市場研究所「英国の株式投資型クラウドファンディング-拡大の背景にある政府・業者の取り組み」及び、Beauhurst社「Equity investment market update」より当社作成)

英国における2019年度のECFプラットフォームを代表する企業はCrowdcubeとSeedrsの2社である。Crowdcubeは、2011年にスタートアップ企業への最初の投資を促進し、Seedrsは2012年にクラウドファンディングのデビューを果たす。「The Deal 2019 Report2」によると、2019年の取り扱い案件数はSeedrsが215件と業界1位、次いでCrowdcube が191件、一方、資金調達額はCrowdcubeが125.3百万ポンドで1位、次いでSeedrsが99.3百万ポンドと2社が業界を牽引している。

(引用:The Deal Equity investment in the UK 2019 レポートより)

Crowdcubeにおける、EXIT事例について。2019年末時点で、6つの案件で投資回収に成功している。 例えば、電気自動車のカーシェアリング事業を行うE-Car Clubは、英国のECFで初の成功事例となっており、2012年12月に10万ポンドの調達を行い、2015年7月にフランス大手レンタカー会社Europcarに買収され、投資家は約7倍の価格で売却している。

・英国 EXIT事例(2019年12月末時点)

(野村資本市場研究所「英国の株式投資型クラウドファンディング-拡大の背景にある政府・業者の取り組み」より当社作成)

・その他

Crowdcubeは、英国のユニコーン企業16社のうち、3社(BrewDog、Revolut、Monzo)の資金調達を行ったことを公表している3。また、Monzoは、直近の資金調達で約2,000百万GBPの企業価値で評価され、Crowdcubeで投資した投資家の保有株式は25倍となっているとの報告がある4。Beauhurst社のレポートでは、上記3社の存在がクラウドファンディングによる株式投資の民主化が進んでいる一つの証左であると報告している5

Seedrsは2017年5月から、自社のプラットホームを通じて資金調達を行った銘柄について売買できるセカンダリーマーケット市場を試験的にスタートさせている6。その後、2018年2月には、Seedrsの株主だけでなく、すべての投資家に「Seedrsセカンダリーマーケット7」を開放している8。この様な新機能が追加されたため、2019年の1年間で大幅な成長を遂げており、2019年には317の案件において、7,858 人の投資家にエグジットの機会を提供している。セカンダリーマーケット開始以降の累計エグジット数は13,671人となっている9。「Seedrsセカンダリーマーケット」の存在より、一次調達を通じて企業に投資する機会を逃した投資家にも機会を与えることになり、取引量が大幅に増加している。Seedrsはセカンダリーマーケットでのリードをさらに広げ、伝統的に流動性の低い資産クラスにある程度の流動性がもたらすことに寄与している。2020年のSeedrsのセカンダリーマーケットの計画の中には、オークション価格設定などの機能を追加予定である。未上場企業への投資に関しては、国内でも流動性についての課題があり、Seedrsのセカンダリーマーケットの取り組みは有益な示唆となりそうだ。

※セカンダリーマーケットで株式を売買するかどうかを決定するのは投資かの単独責任であり、Seedrsが売買のリクエストに応じて自動的に、または投資家に代わって取引を実行することはない。

Seedrsの最も重要な機能の1つは、ノミネート構造である。これにより、投資が完了した後、基になる投資家に代わってスタートアップの株式を保持および管理をする。ノミニーとは、指名により他人に代わって株主名簿上の登録株主となる。Seedrs自身がノミニーとして他の投資家の代表を務める。ノミニーを用いることで、EIS/SEISの手続きや、株主管理に係る手間を軽減できる。スタートアップ側のメリットは、ノミニーを用いることで、同意や株主投票、追加の資金調達をする際に、何百もの散在する投資家への通知送信や承認を一括化できる。これにより、業務が効率化するだけでなく、次の資金調達の意思決定のスピードが速くなり、投資も実行されやすい側面がある。投資家側のメリットは、分散している少数株主の利益をノミニーに集中させることによって、発行体への影響力が増し、投資家にとって不利な企業行動を防ぐ効果がある。一方、クラウドキューブでも、ノミニーの利用は発行体のオプションとして選択できるが、投資家が株式を直接保有することに重点を置いているクラウドキューブでは、ノミニーの導入に積極的ではない。