日本におけるECF(株式投資型クラウドファンディング)市場のアナリストレポート2019年度/馬渕磨理子

2020年5月29日 コンテンツ

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アベノミクスの成長戦略(日本再興戦略 2013年6月)の中で、新規・成長企業へのリスク資金の供給手段としてクラウドファンディングの制度整備がうたわれた。金融商品取引法等の関連法制度が改正され、関連業界団体による自主規制ルール制定を得て、2015年5月より株式投資型クラウドファンディング(以下、ECF)制度が開始された。日本初となるECF業者として、株式会社日本クラウドキャピタルが関東財務局より第一種少額電子募集取扱業者の登録承認を受け、2017年4月にECFのプラットフォーム「FUNDINNO」で第1号案件を掲載した。これにより、国内初となる非上場株式のプライマリーマーケットの運用開始となる。その後、2017年9月に「GoAngel」、2017年11月に「エメラダエクイティ」、2019年7月に「ユニコーン」が案件の募集を開始している。また、2017年から2019年末までに案件の募集を行っているプラットフォームは、FUNDINNO、GoAngel、エメラダエクイティ(現:angelbank)、ユニコーンの4つのプラットフォームがあり、日本におけるECFの市場規模は、2017年の約5億1400万円から、2019年には約29億3600万円と、約5.7倍の市場に拡大している。案件募集件数は、2017年は18件、2018年は59件、2019年は54件と推移している。

また、2017年から2019年末までの資金調達総額のシェアは、FUNDINNOが86%、エメラダエクイティが8%、GoAngelが4%、ユニコーンが2%となっている。

(日本証券業協会の資料よりJCC作成)

次に、日本におけるECFに参加している投資家数の推移を公開しているFUNDINNOのデータで見てみると、2017年の4,800人をはじめとして、2018年には13,700人(前年度比約2.8倍)、2019年には18,884人(前年度比約1.3倍)に拡大し、2019年末時点で、1累計18,880人を超えており、増加傾向にある。

日本における2019年のECFの実績は、調達総額で約9億5100万円、募集を行った企業は約54社となっている。(2018年の調達総額は14億7000万円、募集企業数は59件)。また、2019年は業界の再編が進んだ年となっている。DANベンチャーキャピタル株式会社(サービス名:GoAngel)が株式会社Campfireに株式を売却し、グループ会社となっている。さらに、エメラダ株式会社(サービス名:Emerada Equity)がユニバーサルバンク株式会社へ事業譲渡をしている。2020年は大手証券会社である、SBI Base Capital株式会社(サービス名:GEMSEE)、大和証券グループが資本とXTech社によるイークラウドの参入が予定されており、更なる国内ECF市場の拡大が見込める。2019年における、ECFのプラットフォームシェアは、FUNDINNOが93%、ユニコーンが6%、GoAngelが1%のシェアとなっている。

(日本証券業協会の資料よりJCC作成)

2019年はECFで資金調達を行った企業において、日本初のEXIT事例が出ている。FUNDINNOを通して、株式会社漢方薬研究所は2017年12月に457人のエンジェル投資家から29,250,000円の資金調達を実施しているが、エンジェル投資家の保有する1株500円の株式を、750円での買い付けが行われた。1年5カ月で1.5倍のEXIT事例となり、結果としてFUNDINNOの投資家に還元できることになった。国内のECFにおいて、今後のEXIT事例に期待が寄せられる。

エンジェル税制とはベンチャー企業への投資を促進するため、エンジェル税制対象企業に投資した個人投資家に対して税制上の優遇措置を行う制度である。エンジェル税制は、1997年に始まった制度であるが、実際のところ海外と比べても利用数は多いとは言えない。適用要件が厳しく、手続きが煩雑であることが要因である。以下は、利用状況の推移を示したグラフであるが、この数年はECFを通じた投資への利用が増えたこと等で伸びている。2018年の実績では、約43億円相当、利用企業数は171件となっている。また、2018年においてエンジェル税制の申請数約2000件のうち、約1300件がFUNDINNO経由と全体の68%を占めている。今後も、ECF経由でのエンジェル税制の活用が活発化しそうだ。

(中小企業庁資料より)

一方、日米欧のエンジェル投資額を比較すると、2018年において日本では43億円だが、米国では2兆5000億円と桁違いになっている。また、中小企業庁のアンケートで、税制上の優遇をもらえる「エンジェル税制」を知っているかどうかを尋ねるアンケート調査では、スタートアップ企業からの認知度は23%で、個人の投資家からの認知度は6.1%であった。つまり、ほとんどがエンジェル税制について知られていない現状を受けて、日本では2020年にエンジェル税制の改正が2つの点で行われる。1つ目は、これまでエンジェル税制の対象は、投資をする対象先が設立後3年未満だったが、今回の改正で3年未満から5年未満に拡大される。2つ目は、経済産業大臣認定の機関としてのクラウドファンディング事業者を通した投資については、様々な書類の手続きを緩和するというもので、現状20種類程度の書類から改正後は5種類程度まで減らされる。日本も欧米を追随する形でエンジェル税制の普及拡大と共に、ECF市場の拡大に期待が寄せられる。